リアル謎解き捜査ゲーム PSYCHO-PASS
お台場に仕掛けられたテロを阻止せよ!
信じる道ならば進むのでしょう。それは、人の性なのですから。(from 唐突な幻想水滸伝3)
------(回想)------
「DeathWaterさん、人はどうして律速するのでしょうか」
度重なる律速に絶望した私は、あのDeathWaterさんの元を訪ねていた。
あのDeathWaterさん---律速のない世界に最も近いと言われる人物だ。
あのDeathWaterさんなら、この最大の謎に対する答えを知っているかもしれない。
私の質問には答えず、あのDeathWaterさんは座っていた椅子をくるりと回転させ、私に背を向けた。
「マーガリンさん。あなたにとって、律速とはなんですか」
穏やかな口調で私にそう尋ねてくる。
「律速とは……律速とは、私にとってこの世で二番目に憎むべきものです」
膝の上においた拳を握り締める。律速を思い出す度、私の精神は憤怒と悲哀、悔恨と絶望、それらが複雑に入り混じった暗い感情に苛まれる。
「いい答えです」
あのDeathWaterさんは立ち上がり、脇の窓のカーテンを開いた。西陽が射し込んでくる。
「律速神ラグナロク。私はそう呼んでいました」
「ラグナロク?」
唐突な名前に私は疑問の声を上げる。
「そう、律速神ラグナロク。奴は強力です。出会ったが最後、並大抵の力では太刀打ちできません」
「DeathWaterさんの力を以てしても?」
「はい」
「そんな…それでは一体、どうしたら…」
あのDeathWaterさんですら敵わない魔神に、私などが立ち向かえる筈がない。
がっくりと肩を落としかけたところに、DeathWaterさんの声が届く。
「あなたは先程言いました。律速は、憎むべきものだと。いいですか、憎しみはそれに出逢ったときに、憎しみになるのです。憎しみに出逢ってはいけません。それが憎しみの連鎖を断ち切る最善の方法です。出逢わぬこと。これが肝要なのです、マーガリンさん」
それは意外な言葉だった。
「出逢わないこと?」
あのDeathWaterさんがこちらを振り向く。
「律速神ラグナロクは思いもよらぬ所に潜んで常にこちらの隙を窺っています。そして気まぐれに攻撃を仕掛けてきます。奴の狙いを正確に読むのは至難の業です。しかし、それが出来ぬ限り『律速のない世界』には辿り着けないでしょう」
『律速のない世界』…そうだ、私は何としてもそこを目指さなければならない。そこから見える景色、私はそれが知りたい。あのDeathWaterさんですら未だ辿り着いていない、その場所にどうしようもなく惹かれているのだ。
「ラグナロクの出現パターンは実に豊富です。しかし奴はその強大さ故に必ず何かしらの痕跡を残しています。例えばあなたの前に10本の道があるとしましょう。そのうちの7~8本…あるいはすべてにラグナロクが待ち構えているかもしれません。足跡を探しましょう。足跡がなければ、耳を澄ましましょう。声が聞こえなければ、残り香を嗅ぎましょう。そうしてラグナロクのいる道を特定し、律速という未来を避けるのです」
「それは……メソッドを身に付けるということでしょうか?」
あのDeathWaterさんはニッコリと笑って頷いた。
「膨大なメソッドの蓄積、それが第一歩であることは間違いないでしょう。しかしそれだけでよいかどうか、それは未だ誰にも分かりません。多大な時間がかかるかもしれません。辛く険しい道のりでしょう。しかしただ一つ確実なのは、諦めなければ必ず前へ進むということ」
DeathWaterさんの視線に導かれるように、私は窓の外へ目をやった。
青い空を鮮やかに切り取る白い曲線---富士山。
「それが、脱出坂です」
------(回想終)------
あのDeathWaterさんとの面談を終えた私は脱出坂の遥かな険しさに目眩を覚えながらも、足取りは軽やかでした。
答えはまだ分かりません。しかし、進むべき道は案外、自明でした。
多分どこかで最初からそれは分かっていて、あのDeathWaterさんに後押ししてもらいたかっただけなのかもしれません。
そんなふわふわした軽い足取りで…ついお台場まで来ちゃった☆
目的はこれだ!
「お台場に仕掛けられたテロを阻止せよ!リアル謎解き捜査ゲーム PSYCHO-PASS」
人気アニメ『PSYCHO-PASS(サイコパス)』とコラボしたNAZO×NAZO(ナゾナゾ)劇団主催の謎解きゲームだよ!
今回、私はこれにソロ参加しました。
律速神ラグナロク。
奴の気配を読む感覚を研ぎ澄ませるため、私は孤独の中で戦うことを決意したのです。
今まで時間制限付きの個人戦で完全ソロ参加したことはありませんでした。
これまで甘えが許される状況に身を置いていたおかげで、奴の正体を見抜く感覚が研ぎ澄まされなかったではないか。
そう考えたのです。
お台場アクアシティ内を動き回りながら謎を解く今回のイベント、
「ウィルステロ阻止ルート」「爆破テロ阻止ルート」の2つがあり、それぞれ独立な謎解きとして楽しめます。
よかろう。深夜の飯テロにも一切動じない私にとって、この程度のテロを防ぐことなど造作もない。
ちゃちゃっと解決して、お家でゆっくり六合塚さんと唐之杜さんの百合シーンでも見て癒されようではないか。
しかし、意気込んでスタート地点のブースを出てアクアシティの探索を始めた後、いきなり動揺。
なんだここは…ここは…リア充だらけじゃないか!
どいつもこいつも、楽しそうにしてやがる…。
おかしい、何かが。
なぜ?
なぜ…私は…こんなやつらをテロから守らなければいけないんだ?
私は一体、何のために戦っているんだ?
リア充どものために?我が身を犠牲にして?
…まずい!
このままでは私の犯罪係数が上がり、私が執行対象となってしまう!
大丈夫。問題ない。
何とか呼吸を落ち着け、謎を解き始めます。ナゾ劇さんも酷な謎を仕掛けてくるもんだぜ…。
アクアシティ内を探索しながら、降り掛かる謎を次々と解き明かしていきます。
しかし、奴は動揺した精神状態の私を見逃す程甘くはありません。
そう、出逢ってしまったのです。律速神ラグナロクに。
奴と一対一で対峙したのはこれが初めてだったかもしれません。
その圧倒的で強大な姿に、私は完全に呑まれてしまいました。
ZETSUBOU。
この無力感。これじゃあ……これじゃあまるでギ○さんじゃないか!!(○ノさんファンの人、ごめんなさい > <)
モウダメカモシレナイ…。
戦意を喪失しかけた私は、携帯電話を手にします。あのDeathWaterさんに今の状況を伝えれば、あるいは…。
いや、ここまで来てまだ頼るのか。あの人に。
それこそ本当に、何のために、私は、わざわざお台場くんだりまで…。
そのとき、ふとあのDeathWaterさんの言葉を思い出しました。
「出逢わぬこと。これが肝要なのです」
「奴はその強大さ故に必ず何かしらの痕跡を残しています」
瞬間、私の身体を電流が走ったような感覚。そうだ。ラグナロクには立ち向かってはいけない。逃げるのだ。
来た道を引き返す。よく見るんだ、足下を。奴の足跡が…残っている!
ならば、こちらの道は…足跡がない!
そうか、これがラグナロクの気配を感じる、ということだったのか!
しかしもう時間がない……間に合うか?
爆弾解除コードを入力するのと制限時間終了がほぼ同時。
アクアシティの喧噪に変化は……ない。
私が、守ったのか…?
このリア充どもの笑顔を。
晴れやかな精神状態で見るその光景は、先程とは全く違ったものでした。
ここにいる一人一人に人生がある。悲喜交々。こうして笑っている人達も、数々の苦難を乗り越えて来たのかもしれない。
例えば、今横を通りかかったカップル。
たぶんどちらかは浮気をしている。
そこのベンチで座っている親子連れ。
たぶんあの親父はリストラにあったのを隠している。
脱出坂は確かに険しい。しかしきっと、人生坂もまたそれと同じぐらい険しい。
あとは君達が、君達自身の人生を切り開いてくれたまえ!
未来の可能性は無限大。
心の中で偽りのリア充どもにエールを送りながら、私は予感していました。これは、律速神ラグナロクとの遥かなる戦いの幕開けにすぎないと…。
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