・2013/12/15, 桜新町 東京ボウズアジト
・1号、 2号、 3号、 4号、 7号
The 脱獄ゲーム2
脱獄不可能と言われた「ボウズ刑務所」から半年間で1,500人あまりが警備の穴をつき、逃げ出すことに成功。しかし、新しい「ボウズ刑務所」は警備体制を強化し生まれ変わった。
今度はネズミ一匹出ることができないらしい…。 新たに収監される君たちは、この刑務所から脱獄することはできるのか!?
仕事帰りの道すがら、ちょうど進行方向から月光が射していたので、つられて夜空を見上げる。 そうしたときふと、首から肩周りの違和感に襲われ、久しぶりに空を見上げた自分に気付く。 このちょっとした動作にすら多少の苦痛が伴うようになったことを知り、愕然とせざるを得ない。
いつからだっただろうか。広い未来を思い遠くの空を見ることを止め、 ただひたすら躓かないよう足下ばかりに注意を払うようになったのは。
SHI-GA-RA-MI。
年を経るにつれ、それは真綿で首を絞めるようにじわじわと僕の自由を奪ってきた。
今の僕の生活が幸せか不幸かと問われれば、幸せな方なのだろうだと思う。 うるさいがしっかり者の妻に可愛い息子、厳しくも優しい義両親。これ以上何を望むことがあろう。
しかし、しかしだ。 本当にこれは僕が夢見ていた未来だっただろうか? ただ漫然と過ぎ去る日常の中で、何か、大切な何かを忘れ去ってはいないだろうか。 家族で団欒中の僕の笑顔、あれは本物の笑顔なのだろうか。 ペルソナを被り生活を続けているうち、自分にはもはやペルソナの外し方が分からなくなっていたのだ。
「フ○田くんじゃないか」
聞き慣れた声に振り返る。
「ア○ゴくん」
彼もまた、僕と同じ現代社会の囚人だ。日常の惰性に埋没している仲間の存在に、安心感を覚える。 その暗い喜びこそがまた、僕自身を今いる場所に捕らえようとするのだ。
仕事や家庭の愚痴、ひとしきり予定調和のやり取りをする。 愚痴をこぼす割に、お互いそこから抜け出す気などさらさらないのは分かりきっている。 どこまでいっても囚人同士の慣れ合いは不毛なものだ。
しかし今宵は何かが違っていた。月の光は狂気を呼び起こすーーあながち都市伝説でもなかったのかもしれない。 一通りの会話が途切れた後、見慣れた友人の口から放たれた言葉は衝撃的なものだった。
「脱出、してみないかい?」
「ーー脱出?」
何を言っているのか分からなかった。その言葉に直感的に感じたのは驚きよりもまず、恐怖だった。
「そう、脱出だよ。このがんじがらめの、鬱屈した日常から。僕らを縛る SHI-GA-RA-MIから。脱出するんだ」
彼の目はいつになく真剣だった。言われてみれば、恐怖の正体は単純だった。 いつの間にか日常に慣れ親しむあまり、およそ変化というものを恐れるようになっていたのだ。 「脱出」という言葉の持つ非日常的な響きが、僕の潜在的な恐怖感を呼び起こしたのだと思い至るに時間はかからなかった。 そしてそれと同時に心の端っこに生じた僅かな火種を、今宵の僕は見逃さなかった。
「SHI-GA-RA-MIからの脱出...」
声に出して反芻してみる。 言葉の持つ熱が、凍り付いていた僕の心を溶かしてゆく。 瞬間、周りの風景が色づいて見え、自分の瞳に光が宿ったかのような気がした。
いつだって、僕は舗装された細い小路を歩いていた。分かれ道などなかった。 いや、そう思い込んで周りを見ようとしなかっただけだ。
今、目の前には二つの道がある。右手には暖かい家庭へと続くいつもの帰り道。 左手には、淡い月光に照らされた路地。たったそれだけのことだが、今はそれが無限の未来へと連なる花道に見えた。
「この近くに東京ボウズのアジトがある。どうだい、まずは手始めにそこで、脱獄に挑戦してみないかい?」
脱獄。そのフレーズに胸が躍る。
「ア○ゴくん...。しかし、家ではもう夕飯の準備が...」
「はっはっは! 何を言っているんだい、フ○田くん! それこそがSHI-GA-RA-MIだよ!」
「あ、ああ。そうか。そうだよな。ははっ。ははははは!」
「全く、先が思いやられるな!」
ア○ゴくんが僕の背中を叩いて大声で笑う。つられて、僕も涙が出る程腹を抱えて笑っていた。 それは子供の頃から忘れていた、本当の心の底からの笑顔だった。
「ようし、びゃあぁぁっと脱出しちゃいますか!」
意気揚々と歩き出す。この道は家に通じていない。この先にあるのは東京ボウズアジト。 しかし、本当にそのさらに先にあるもの、それは多分、無限に広がる未来だ。 とりあえず首元を締め付けるネクタイを外し、ゴミ箱に投げ捨てた。
といった感じのドラマが日夜繰り広げられているであろう桜新町。 今回挑戦したのは東京ボウズ主催の「The 脱獄ゲーム2」です。 (ちなみに、本記事は消息を断った先代■■■■■■■■の記憶を引き継いだ■■■■■■■■II世が代筆しております。)
リアル脱出ゲームに嵌り始めて数ヶ月、SCRAP以外のイベントにも興味を示し始めているDashtzers。 私7号が以前、謎フェスで参加した東京ボウズの「謎解き学園 消えた給食費」がとても楽しかったので、 今回は私がメンバーを誘う形で、桜新町までやって来ました。 他メンバーにとっては、なぞともカフェを除けば、SCRAP以外の団体のイベントに初参戦ということになります。 1号、2号、3号、4号、7号、 それにたまたま東京に遊びに来ていた1号ひでよしの妹も加えて6人での参加となりました。
会場に集まったのは我々6人と、カップル1組、男女4人組、女性3人組の計15人。 確か、ひでよし妹も含めて半分位は謎解き初心者という構成だったと思います。 この凶悪犯15人が協力して脱獄を目指すという、まさに脱出ゲームの王道的な設定です。
各所での評判通り、随所に挟まれるスタッフの小芝居が独特の味を出しており、 牢獄とは思えない和やかな雰囲気で謎解きが進んでゆきます。 それ程大きい会場ではありませんが、15人でわちゃわちゃしても手狭には感じない程度の広さはありました。 とにかく色んなギミックが面白く、次に進むステップを見付ける度に皆から感嘆の声が上がります。
最終的には残り時間1分をきったところで脱獄成功! 毎回、東京ボウズの公演には「ボウズタイム」なるものが存在するそうですが、 今回はそれに頼ることなく規定時間内での脱出に成功しました。
(※ボウズタイム:謎解きイベントにおける制限時間ラスト一秒が異様に長く感じられること。 要はあんまり制限時間を気にするなということ。多分。)
とにかく「楽しい」、この一言に尽きる公演でした。 謎解き自体はもちろんのこと、スタッフの方々の小芝居が個人的にかなりツボです! 謎解きに関しては、ちょっと我々が先へ先へと急いでしまった感じがしなくもないので、 余り謎解きに触れずに終わってしまった方がいらっしゃったら申し訳ないですが...
今後、東京ボウズを始めとして、色んな団体の主催するイベントにも積極的に参加していこうかな、 と考える切っ掛けにもなりました。
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